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プロジェクト紹介

商品開発

「社員の個性×利他の精神で
次々と課題を解決する」
~唯一無二のオリジナルの商品開発エピソード~

ファーストキル

「害虫の駆除ではなく、発生を予防する」
~発想の転換が、新しい防除方法を生み出す~

食品工場や倉庫などは、害虫が発生しやすい環境であるため、常に対策を行わなければならない。けれども、その前提となる常識を疑えばどうなるだろうか。そもそも害虫の発生・増殖のサイクルを抑えられれば、問題は根底から解消するはず。アメリカの学会で聞いた話が7年後、一人の技術者の頭の中で蘇った。

「2007年、アメリカで開催されたNPMA(毎年アメリカで行われる世界最大の害虫駆除業界の学会・展示会)に参加していました。そこでIGR剤(昆虫成長抑制剤:昆虫の脱皮・羽化を阻害する殺虫剤で、日本では蚊やハエの幼虫に使われる)は様々な害虫に効果がある、という発表を聞いているときに、「これ、もしかしたら工場などで発生する貯穀害虫にも使えるんじゃないか”と閃いたのです」と、営業開発部の菅野格朗は一昔前の話を振り返った。けれども、一瞬の閃きが現実に蘇るまでには、かなりな時間が必要だった。

学会参加から7年後の2014年に菅野は、ある害虫防除業者との共同プロジェクトで、このIGR剤を使った商品開発に取り組むことになった。試行錯誤を繰り返した結果、特殊な機械を使って泡状にした上で排水溝や厨房などに施工する、それまでなかった画期的な手法を編み出した。

さらに菅野はIGR剤の応用法も思いついた。「虫で困っているのは粉を扱うような製麺・製菓工場なども同じ。そんな現場で広範囲にIGR剤を簡単に施工できれば、画期的な商品になるのではないか。アメリカでの発表を聞いたときに浮かんだアイデアを思い出したのです。そして泡ではなくエアゾールにすれば簡単に広範囲に噴霧できるじゃないかと発想を広げていったのです」

誰も考えもしなかった貯穀害虫発生への「予防」

食品工場や穀物倉庫などでは、貯穀害虫の発生は避けられない。これが業界の常識だった。だから、発生した害虫を駆除するため定期的に殺虫施工する。薬剤などを施工した後は害虫の発生を抑えられるものの、時間の経過とともに害虫は復活してくる。増えてきたら、また薬剤を施工する。

「いわばイタチごっこなわけですが、その理由は、そもそも貯穀害虫の発生を抑制する薬剤がなかったからです。ところが学会では確かに、IGR剤が貯穀害虫にも有効だと発表されていた。だとすればエアゾールタイプにして、貯穀害虫の発生している場所に有効成分を処理できれば、害虫の発生そのものを抑えられる。定期的に繰り返して施工すれば、床面に有効成分が蓄積するはずで、そうなれば害虫がそもそも発生しにくくなると考えたのです」

開発した商品『ファーストキル』を試すため、製麺会社の工場に通い詰めた。その工場は粘着シートを設置しておくと、1カ月で1500匹も貯穀害虫のタバコシバンムシがびっしりと貼りつくほど発生量の多い現場だ。その工場内で『ファーストキル』を散布し、機械類の下にも噴霧したところ効果はてきめん、幼虫の成長が抑制され、大量に発生していた虫が徐々に減っていき、最終的にはゼロになったのだ。その後も予防的に定期施工を継続し、タバコシバンムシの発生そのものが抑えられている見事な成功事例となった。

プロ用薬剤の概念を覆す

ただし『ファーストキル』は発売当初、害虫駆除業者にはほとんど売れなかった。その理由を菅野は「駆除をすることがプロの仕事なので、予防という概念が分かってもらえなかったからです」と説明する。従来なら専用の資機材を持ち込んで施工していた害虫駆除が、スプレー缶を噴霧するだけの簡単な作業になる。それでいて害虫駆除ではなく発生予防となってしまうから、仕事の結果が見えにくい。業者からすれば、自分たちの存在価値を覆されかねない製品とも考えられる。

だが菅野は焦らなかった。実際に試してみれば、効果は明らかに実感できるのだ。自社開催のセミナーで実績を紹介するなど地道な活動を続けた結果、徐々に効果の高さが口コミで知れ渡るようになり、「予防」という新しい概念も受け入れられるようになった。この間に当初開発された全量噴霧式の『ファーストキルT』に加えて、スポット処理用の『ファーストキルN』も開発された。これは専用のノズルを付けて、機械内部やその下のわずかなすき間などに噴霧する。

「ファーストキルとは幼虫期(First)の虫に効く(Kill)薬剤です。だから成虫の発生を予防でき、害虫のライフサイクルを断ち切ることで害虫を徐々に減らしていける」と、自ら発案したネーミングを説明する菅野、その夢は「より革命的な害虫の防除方法をつくること」だという。

フライヘル

「飛んでる虫はどこで休んでる?」
~習性観察が生んだ、特許取得の捕虫器~

スーパーマーケットの食品売り場で、最も困るのがハエなどの害虫。一方で虫たちにとって食品は何よりの好物、むき出しのお惣菜やパンなどに喜んでたかってくる。「この虫を何とかできないか」と考え始めたのが2013年のこと。虫の専門家ならではの疑問から、画期的なアイデアが生まれた。

食品売り場の近くに置かないと、虫除けの意味がない。かといって食べもののそばに置くのだから、見栄えが良くないと困る。その意味で従来使われていた虫除け用の忌避剤は、お客様に不快な思いをさせかねないため決してベストな解決策ではなかった。

専門家から見てもっと効果的な方法や、アイディアはないのか。そんな相談が寄せられて、プロジェクトはスタートした。

集められたメンバーは、いずれも大学時代に虫の研究に没頭した虫好きばかり。飛んでいる虫を見かけると、つい追いかけて観察してしまうような人間が揃っている。「議論を繰り返す中で誰かが言ったんです。“ところで虫は一体、どこでどうやって休憩しているんだ?” このひと言で開発の方向性が見えました」と営業開発部の石川善大は、ブレイクスルーの瞬間を振り返る。

いくつもの虫の習性のうち、着目するところは何か?実際に店舗に出向いて、ハエの生態を探る作業が繰り返された。虫を目にするたびに、どこに止まるのかを確かめる。地道な作業を続けてたどり着いたキーワードは「エッジ」である。

試行錯誤を繰り返し、カタチを絞り込む

ハエは、例えばテーブルの角や植物の葉の端の部分など、尖ったところ、エッジに好んで止まる。「であるならば尖ったもの、エッジが多い形のものを置けば、飛んできた虫が勝手に止まる。そこに捕獲する工夫があれば虫を退治できるはずです。」

考えるべきは、尖ったものを何にすればよいか。食品売り場に置いても目障りにならないのが条件だ。検討を重ねた結果、インテリアグリーンの採用が決まった。人工の観葉植物なら、お客様から好感を得られるだろう。では、その葉っぱは丸いのがよいのか、それとも針状に尖っている方が効率的なのか。社内実験が繰り返され、やはり針状と決まった。

次の課題は、インテリアグリーンに止まった虫の処理方法だ。ハエが止まったままの葉っぱを、店頭に置くことはもちろん許されない。そこで、虫を下に落として捕まえることになり、葉っぱへの特殊加工の方法を考えた。

落ちたハエは、インテリアグリーンを置く鉢皿に粘着シートを敷いて回収する。と言っても簡単にはいかず、落ちた虫がきちんと鉢皿のなかに収まるのか?粘着シートに捕獲されるのか?検証と実験が続いた。

「店頭に置いてもらっても違和感はないか。実際にハエを効果的に捕らえられるのか。試作品をスーパーマーケットに持ち込んで何度も試してみました。捕れた虫がお客さんから見えにくいよう、粘着シートの色や虫を回収する鉢皿の深さも検討しています」

細かな作業を繰り返しているうち、いつの間にか3年が過ぎていった。

今までにない「待ち伏せ型」インテリア捕虫器の誕生

「虫を葉に止まらせて落として捕獲する」、フライヘルの一連の流れが他にないものとして評価され、特許も取得した。一度は拒絶されながらも、その有効性を実験データによって訴求した結果、2018年に特許が成立している。

ネーミングは社内公募され『フライヘル』となった。フライつまりハエにとってのヘル、地獄である。アリ地獄ならぬハエ地獄で、ハエが“減る”。

店頭に置いても人の健康には何の問題もなく、月に一度、粘着シートを取り替えるだけで春から秋まで虫を捕まえ続ける、待ち伏せ型のハエ地獄。防虫対策、虫を捕っています、という印象を与えること無く、インテリア感覚で売り場からハエなどの虫を取り除くことができる。設置した顧客から「ツボにはまると、めちゃくちゃたくさん捕れる」と連絡が入ることもあるという。

これまで着目されてこなかった、虫の休息習性を利用することで開発に成功した『フライヘル』、まさに虫の専門家が集まる環境機器だからこそ開発できたオリジナル商品である。

ペストビジョン

「害虫駆除にITのメスを入れる」
~AI+IoTで新たな常識をつくる~

ネズミや害虫の発生を、24時間365日体制で遠隔自動監視できれば、どんなに楽になるか。20年前に芽生えた空想が、ITの進化により実現可能となった。ハードウェアの選定からシステム設計・構築まで、プロを巻き込んだチーム体制で開発が進められ、2021年10月には画期的なシステムが完成する予定だ。

環境機器が商品開発に取り組む姿勢を象徴する商品、それがペストビジョンである。すなわち「まずは利他であること」「不可能を可能にする」「活動はあくまで自律的に」「無茶振りあり、ただし思いきった投資をいとわず」といったスタンスで画期的な仕組みをつくるのだ。

「そもそものスタートは、特定の現場にネズミがいないことを証明するシステムを作ることでした」と、武津一輔は6年前の話から始めた。その場所にネズミがいると大問題となる。だから駆除が完璧であることを、ネズミの不在証明によって保証する。必要なのは現場にカメラを設置し、24時間動画撮影したデータを解析する全自動のシステムだ。

もとより前代未聞のテーマである。開発チームのメンバーは、工場や飲食店など合計50カ所ぐらいの現場に出向き、ざっと5000時間分の映像を撮影した。映像データを大学の研究室に渡し、ネズミを見分ける解析ソフトを開発してもらう。

「ソフトの基本設計ができた段階で、ソフトウェア会社に開発を引き継ぎ商品化に取り組みました。開発開始から4年後の2018年にようやく完成しました」と、亀本達也は『ペストビジョンR型』の開発プロセスを振り返る。ネズミの活動を自動監視するシステムは、ネズミの侵入経路の把握や動線解析に応用でき、駆除作業を効率化できる。展示会などでの反応は上々で、高額ながらも少しずつ普及し始めている。

モニタリングの理想を追求

R型が完成し、次なるターゲットと定められたのが害虫だ。害虫駆除の効率を高めるためには、いつ・どこに・どんな虫が・どれくらい発生しているかを的確に掴む必要がある(これを「モニタリング」と言う)。そのため、捕虫紙で捕まえた虫を、専門家が顕微鏡などを使い人手をかけて検定しているのが現状である。

「虫の同定には、まず専門知識が大前提となります。しかも細かな虫を見極めるには時間がかかる。とはいえモニタリングの精度を高めるためには、一つの現場で捕虫紙を可能な限り多く設置する必要があります。害虫駆除業者の本来の業務は駆除であり、モニタリングは駆除のための前提となるデータの収集です。そこに時間を取られているのは本末転倒です」と、害虫駆除業者が抱えている課題を田之江崇文は指摘する。

人手をかけていた作業を代替できるのがAIの何よりのメリットである。それならモニタリング業務の問題点も、ITで解決できるのではないか。すなわちAIとIoTを活用すれば、害虫の発生・侵入状況を遠隔でモニタリングできるはず……。理想をカタチにする『ペストビジョンF型』の開発はスタートした。

AI開発は試行錯誤の連続

「ネズミの次は虫をやってみよう、という段階で、前職で害虫駆除業者として働いていた私が参加しました。朝から深夜までモニタリング業務で苦労していたこともあり、こんなシステムがあったらいいなと夢想していました。入社面接時にこのプロジェクトの概要を聞いたとき、実現場でのモニタリング業務の経験をもっていたことやIT関係への興味もあったため、自分が活躍できる場はここにあると強く感じました。しかし人の目の精巧さにAIがなかなか追いつけないようなこともあり、苦労する場面も多いです」と、現状を説明するのは川竹友志。AIの開発は、試行錯誤を繰り返しながら、現在も精度向上に努めている。

大学で昆虫の博士号を取得した伊藤誠人は「何より難しいのが虫の種類判別です。膨大な画像データを集めて教師データとしAIに学習させるのですが、判別に最適なアルゴリズムをどのように構築すればよいかを探っているところです。ここ数カ月が勝負と考えています」と今後の展開を語る。

AIの開発は環境機器としていままで経験したことのない分野であり、想定していた以上の要素が必要だった。思っていた以上のクオリティのカメラ、思っていた以上の虫教師データ収集、加えて思っていた以上に根気のいる作業も求められた。AI開発は時間も予算もかかるため、ここまでで既に数千万単位の投資が行われている。

AI開発会社とも連携を続けながら、現在では当初と比べて画質や精度が格段に向上、残る課題は、小さな虫の判別や同じような特徴を持つ虫同士の混同を避けるための取り組みにまで絞り込まれている。

目指すのは、害虫駆除業界のゲームチェンジャー

「将来的には捕虫紙の検定作業を、専門家ではなくAIが代行できるようになります。しかもAIなら、判定が技術者のスキルに左右されることもありません。24時間365日の自動監視が実現できれば、現場に投薬装置を設置しておき遠隔噴霧するなどの駆除方法も考えられるようになります。“害虫駆除の完全自動化、この理想を実現するまであきらめるな”が社長からのメッセージ。もちろん必ず完成させます」と、武津は決意を語ってくれた。